世界を変えた化学反応式

2020.03.11 ブログ

N2+3H2→2NH3

という反応式がある。
高校化学の無機で学習するもので、発見者の名前がついており、ハーバー・ボッシュ法と呼ばれる。


ハーバーとボッシュは別人で、二人ともドイツ人。この反応式がどれだけ世界に影響を与えたのかという証拠として、発見者のハーバーは1918年に、安価に大量生産できるように工夫したボッシュは1931年に、それぞれノーベル化学賞を受賞している、と言えば十分だろう。


では、この反応式の何が凄いのか?


その前に、そもそもこの反応式の中にあるNH3(アンモニア)がどれだけ人間社会にとって重要なのか、わかっている人はどれだけいるのだろう?


自分の担当する授業でアンモニアが出てくると、必ず生徒に「アンモニアって何に使われてるか知ってる?」と聞くのだが、答えられた生徒はほとんどいない。


アンモニアというのは、農業で使われる「窒素肥料」になるのである。植物は体内で窒素を合成できないので、外部から取り入れるしかない。そのための肥料が窒素肥料であり、農業には欠かせないものだ。


やや誇張された表現だが、ハーバーとボッシュは「空気(窒素)からパン(小麦)を作った人」と呼ばれていて、母国であるドイツでは彼らの業績をたたえた銅像作られ、今でも残っている。
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この反応式が発見されたのは1906年だが、この頃は1914年から始まった第一次世界大戦の影響で世界的に食糧難だったわけで、この反応をいかに効率よく起こし、肥料を大量生産できるかというのが非常に重要だった。ドイツに始まりヨーロッパ諸国はもちろん、日本にもその波はやってきて、この反応の効率化が国家プロジェクトにまでなってしまったぐらいである。


2012年のデータだが、全世界で生産されているアンモニアはなんと1.6億トン、そのうち8割が窒素肥料として使われている。そして、そのアンモニアのほとんどが最初に書いた単純な反応式で作られているわけだ。この反応式があるから、小麦などの農作物を大量に生産でき、安くておいしいパンを食べることが可能になる。


たった一人の人間が発見したことが様々な国を動かし、世界を変えていく。科学の世界ではよくあることだ。発見されてから100年以上経つが、いまだに現役バリバリで人間社会を支えている化学反応式なのである。

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